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耳・鼻の病気
蓄膿症は昔からいわれている俗名で、医学的には副鼻腔炎といいます。こちらの呼び名の方が馴染みがあるという方も多いかもしれません。副鼻腔炎はアレルギー性鼻炎や花粉症の増加に伴い、増えているといわれています。そして、花粉症の低年齢化が進んでいることもあり、副鼻腔炎に関しても同様に低年齢化が進行しているようです。
副鼻腔炎という病名から「副鼻腔」に炎症を起こす病気ということは分かります。では「副鼻腔」とはどこにあるのでしょう。
鼻の周囲、頬・目の周りの空洞になっている部分のことです。その空洞は、鼻のすぐ横、頬のあたりに「上顎洞(じょうがくどう)」、目の間のあたりに「篩骨洞(しこつどう)」、おでこのあたりに「前頭洞(ぜんとうどう)」、鼻の奥深くに「蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)」、これが鼻を囲むように左右合計8個あります。
鼻腔(鼻の穴)や上記の副鼻腔の粘膜は繊毛という細かい毛で覆われ、外から入ってきたホコリ・花粉、ウイルスなどの異物を鼻水とともに排出し、異物が入らないよう体を守っています。もともと体に備わっているフィルターのような役目をしている場所といっても良いでしょう。
副鼻腔炎は、原因となる異物が上記の副鼻腔まで侵入し、炎症が起き、膿が発生した状態をいいます。その原因は、風邪などのウイルスが原因の「感染性」と、ハウスダストなどが原因の「アレルギー性」があります。そして、歯の根の先部分が副鼻腔の「上顎洞(じょうがくどう)」のすぐ側にあるため、虫歯や歯周病が原因で起こる場合もあります。
また、アレルギー疾患と慢性副鼻腔炎の合併率は30~40%との報告があり、この数値はアレルギー性鼻炎や花粉症の低年齢化が進んでいることからも、今後ますます増加していくと考えられています。文部科学省の学校保健統計調査でも、幼稚園や小学生の副鼻腔炎患者が増えているとの結果を発表しています。
副鼻腔炎の症状の中に、鼻がつまる・鼻水が出るというものがあります。これは、風邪やアレルギー性鼻炎とも同じです。しかし、副鼻腔炎になると、鼻は鼻腔(鼻の穴)から外に出るばかりでなく喉の方にも流れます。これを鼻後漏(こうびろう)といいます。外に鼻水が出るアレルギー性鼻炎とは対照的な症状です。
その他の症状としては、頭重・頭痛、口臭、顔や歯そして目の周辺の痛み、嗅覚・味覚障害、胃の不調、中には肩こりを訴える方もいらっしゃいます。また、集中力に欠け、情緒不安定でイライラしやすいといった精神的な症状も出てきます。鼻の病気で、鼻のみに症状が現れると思われがちですが、肉体面・精神面にも、予想する以上に広範囲に症状が出る病気だということが分かっていただけたと思います。
副鼻腔炎の原因でもっとも多いのが、風邪やインフルエンザのウイルスや細菌による感染です。
風邪などの時に鼻の穴の粘膜が腫れると、その奥にある副鼻腔の入口が塞がります。すると、空気の流れが悪くなり、副鼻腔の中の圧力が変化し痛みが生じることがあります。さらに、副鼻腔内が細菌感染すると、濃い鼻汁、発熱、さらに痛みが増すこともあり、こうした段階を「急性副鼻腔炎」といいます。
急性副鼻腔炎が目に近い副鼻腔で起こると、視覚異常が生じる場合があります。もし鼻汁など鼻に関わる症状だけでなく、目に何らかの異常を感じたときは、すぐに医療機関を受診する必要があります。
それに対して、慢性副鼻腔炎では痛みはほとんどありません。鼻汁が出る、鼻がつまる、匂いが分かりにくい、体がだるいといった症状です。このような症状のため風邪やアレルギー性鼻炎などと区別が付きにくく、放置している方も多いかもしれません。しかし、上記のような症状が1カ月以上続くときは、慢性副鼻腔炎の可能性が高いです。耳鼻咽喉科などを受診して検査を受け、適切な治療を受けましょう。
鼻腔および副鼻腔の炎症による症状の持続期間が4週間未満であれば「急性」、4~12週であれば「亜急性」、12週以上であれば「慢性」といわれています。また、急性鼻副鼻腔炎の殆どが7~10日で治癒するのに対し、慢性副鼻腔炎は長期的な治療が必要となります。
「急性副鼻腔炎」と「慢性副鼻腔炎」の症状の比較
好酸球性副鼻腔炎は、慢性化のう性副鼻腔炎と比べて治りにくいとされ、2015年3月に難病指定された慢性副鼻腔炎の一つです。「好酸球」とは白血球の一種で、アレルギーの病気を起こした時に増える細胞です。アレルギーが原因で副鼻腔に炎症が起こり、この好酸球が副鼻腔にたくさん集まると好酸球性副鼻腔炎になります。
その症状としては、糊のような粘り気のある鼻水が出ることです。多くの場合、臭いを感じる細胞がある場所の近くにある副鼻腔を中心に炎症を起こすため、嗅覚障害を起こしやすいです。さらに、鼻茸と呼ばれる鼻ポリープが多発します。これが大きくなったり、多発することで鼻づまりが悪化し、鼻で呼吸することが困難となります。この鼻茸は正常な鼻・副鼻腔の粘膜が腫れ上がったもので、癌化する恐れはありません。しかし、切除手術しても再発を繰り返すこともあります。
慢性副鼻腔炎には、以下のような6種類の中から、症状によって必要な検査を受けて診断されます。
いつ頃からどのような症状があるのかを確認します。鼻づまり、粘り気のある鼻水、後鼻漏、咳、嗅覚障害、頭痛、頬の痛みなどの症状の確認
分泌物を採取し、どんな細菌が繁殖しているか検査します。
鼻腔に鼻茸がないか確認します。
タイプに関わらず受ける検査です。嗅覚検査には「静脈性嗅覚検査」と「基準嗅力検査」の2つがあります。前記は、ニンニク臭のあるビタミン剤を注射して、吐く息で匂いを感知するまでの時間と、匂いの持続時間を調べる検査です。後記は、バラの花や納豆、桃など5種類8段階の匂いを嗅ぐ検査です。
年間約30万人が発症するといわれている慢性副鼻腔炎のうち、90%の人は「保存療法(鼻腔内の洗浄と薬物療法)」で治療されています。マクロライド系抗菌薬を使い、炎症を抑えることで副鼻腔内がもとの状態に戻ります。しかし、この治療は薬の服用期間が長いため、肝機能異常といった副作用の懸念があるため、血液検査でチェックしていく必要があります。
残りの10%は「手術療法」になります。内訳は、上記のような薬で治らなかった人と、大きな鼻茸(鼻ポリープ)ができている人です。現在は、内視鏡による手術が主流で、骨を大きく削ったり、粘膜を根こそぎ取るようなことはありません。
内視鏡手術のメリットは、出血や痛みが少なく、術後の回復も早いことです。鼻茸や膿を吸引しながら細かく削り取る画期的な装置の開発により、手術時間は大幅に短縮できるようになりました。両側で約1時間半、そして入院期間も1週間ほどと負担のないものになっています。
手術後はマクロライド系の抗生物質を少量長期投与し、残った病変をしっかりと治すことがとても重要になります。医師の指示に従い、自己判断で薬を止めてしまわず、根気強く治療を続けることが完治に結びつきます。
上記の通り風邪などが原因となって起こることが多いため、「風邪をひかないこと」「風邪を長引かせないこと」が副鼻腔炎を起こさない一番の予防となります。
「風邪ぐらいで仕事を休めない」そんな風に考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、風邪をひいたら無理をせず十分な休養と睡眠をとり、早めに治すことが副鼻腔炎予防になります。日頃から栄養バランスのとれた食事、規則正しい生活を心がけることも大切です。
また、鼻水の中には細菌がたくさん含まれています。溜まった状態が続くと副鼻腔炎の悪化につながります。こまめに鼻をかんで鼻水を溜めないようにしましょう。薄めの食塩水などで洗浄し、鼻粘膜を清潔にしておくことも効果的です。鼻洗浄は風邪や花粉症の予防にもなり、副作用もありませんから、副鼻腔炎になっていなくても予防として気軽に始めることができます。
風邪予防として「うがい」をされる方は多いと思います。それと同じように鼻の中をスッキリ洗うことを「鼻洗浄(鼻うがい)」といいます。これのメリットは、鼻をかんでも出にくい粘り気のある鼻水や、ウイルス、花粉やハウスダストなどのアレルギー物質を洗い流す効果があるところです。
風邪のウイルスや花粉が付着しやすいのは、鼻の奥にある上咽頭といわれる部分です。しかし、この部分は鼻をかむくらいのことで、完全に外に出すことはできませんし、喉のうがいでも洗い流すことはできません。それに比べ、「鼻洗浄(鼻うがい)」は上咽頭までしっかりと洗い流すことができます。喉のうがいと同様に、生活習慣として定着させれば、より効果的な風邪予防となり、ひいては副鼻腔炎予防になります。
その「鼻洗浄(鼻うがい)」ですが、水道水などででは痛みを感じてしまいます。ドラッグストアなどに行けば、簡単に専用の洗浄液や容器を買うことができますが、「今!鼻づまりをスッキリさせたい」という場合もありますから、作り方を知っておくと、いつでも「鼻洗浄(鼻うがい)」をすることができます。
鼻に真水が入るとツーンとします。これは体液と水の浸透圧が違うために起こります。そこで、体液と同じ浸透圧である、0.9%の食塩水を作ります。
【0.9%食塩水の作り方】
1.水をいったん沸騰させて、人肌くらいのぬるま湯まで冷まします。2.1リットルのぬるま湯に対し、9gの食塩を入れて溶かします。
テレビや雑誌などで話題になっている「あいうべ体操」ってご存じですか。「あいうべ体操」と副鼻腔炎(蓄膿症)にどんな関係があるのか、ちょっと不思議に感じるかもしれません。しかし、副鼻腔炎(蓄膿症)を予防できると聞くと、ちょっと興味が沸いてきませんか。
本来、呼吸は鼻でするのが基本です。副鼻腔には天然のガスがあり、このガスが体内に入ることで、血管を拡張し血流がスムーズに行われています。口ではこのガスを使わず呼吸するため、様々な不調を招くことになります。
通常、舌は上あごに軽く触れている状態が望ましいとされています。それが下に落ちているほど口呼吸の可能性が高いそうです。以下に口呼吸をするデメリットを挙げてみました。
鼻の穴の中に生えている細かい毛や粘膜は、ウイルスやアレルギー物質をカットしてくれる、フィルターの役目をしています。口呼吸になると、それらがダイレクトに気管に入り、風邪を引きやすくなります。
通常、唾液に含まれている「リゾチーム」という酵素により、菌の繁殖は抑えられています。しかし、口呼吸により唾液が乾燥するとリゾチームの働きが悪くなり、お口のトラブルが起こりやすくなります。
他にも、呼吸が浅くなることで呼吸器疾患のリスクや自律神経の乱れ、集中力がなくなったり、嚥下機能も低下する等など、様々なリスクがあることが分かっています。「あいうべ体操」は口呼吸から鼻呼吸に移行するための簡単な体操なのです。
ここで、副鼻腔炎(蓄膿症)の原因について再度確認をします。風邪やハウスダスト、そして、歯の根の先部分が副鼻腔の「上顎洞(じょうがくどう)」のすぐ側にあるため、虫歯や歯周病が原因で起こる場合もあります。ですから、「あいうべ体操」は、副鼻腔炎(蓄膿症)の予防にも効果が期待できるのです。
「あいうべ体操」は、用意する物など何もなく、とても簡単に家事をしながら、お風呂に入りながら、思い立ったらすぐに始められます。
無理のない範囲で、それぞれの動きを3~5秒かけてゆっくりとキープし、①~④を5~10回繰り返します。1日に30回を目安に繰り返すと、早い人なら3週間ほどで、舌の位置が上顎に付くようになるそうです。
自然界の森羅万象を代表的な5つに分類した哲学があります。人間は自然界の一部と考える漢方では、この哲学を人間の体に置き換え、大きく5つに分類しています。それを表したのが上の図です。
この5つは、相手を生み育てる母子関係「相生」と相手を抑制する関係「相克」で、お互いに絶妙のバランスを保つことで健康を維持していると考えられています。この陰陽五行説には「虚するときはその母を補せ」というルールがあります。つまり、「弱っている臓器があるときは、その母となる臓器に元気をつけるとバランスがとれて健康になりますよ」という意味です。
上の図にある赤字の「鼻」と「胃」の関係を見てみましょう。副鼻腔炎の「鼻」が属している[金]の部分には、「鼻」以外にも「肺」も含まれています。つまり「鼻」だけではなく、「肺」も弱っていることが分かります。それらを治そうとした場合、母子関係にある[土]に属している「胃」を、元気にする必要があることが読み取れます。
このことから、副鼻腔炎を治すためには、胃に負担をかけないような食生活や生活習慣が必要ということになります。冷えや暴飲暴食、ストレスなどに気をつけて、胃をいたわる生活を心がけると良いということです。
この陰陽五行説は、自身の体の健康状態をチェックできますし、治療する上でも大切な物差しとなります。また、未病(まだ病気を発症していない状態)でも、将来的な病気の予測がしやすく、生活を見直すなど早めに予防をすることも可能となります。
西洋医学では、鼻の吸引、炎症に対してはマクロライド系あるいはペニシリン系の抗菌薬を使い、副鼻腔に溜まった膿を取り除き症状を改善します。
それに対して漢方治療では、漢方薬を用いて鼻腔(鼻の穴)や副鼻腔内にたまった膿を出し、回復の手助けをしながら症状を改善させるという流れになります。そして、繰り返さないための体質改善治療へと移していくことも可能です。
サラサラの鼻水には小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、黄色いドロドロの鼻水には荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)、鼻がつまり、後鼻漏がある場合は辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)など、それぞれの症状に合わせた漢方薬を用います。また、アレルギー性鼻炎や風邪などが長期化して体力を消耗している場合などは、元気を補う漢方薬、黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)や補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を処方する場合もあります。
西洋薬と比較して漢方薬は自然の生薬なので、体に優しく副作用が無いと思われがちですが、上記に挙げた漢方薬の中にも胃の弱い方に副作用が出るものもあります。さらに、副鼻腔炎の具体的な症状、発症からどれくらい経過したかなどによっても処方は異なります。より効果的な治療を行うためには、専門医や漢方薬局などで詳しい症状の説明をして処方をしてもらう必要があります。
副鼻腔炎の原因は、高い確率で風邪やアレルギーによって起こることは、上記にもある通りです。つまり、免疫力を高めて、風邪をひきにくくする、アレルギーに強い体にすることができれば、副鼻腔炎になる確率は格段に下がることになります。
漢方の治療は薬だけではありません。日頃の生活を改善することが治療に繋がることもあります。以下に副鼻腔炎の養生法についてまとめてみました。
鼻づまりや鼻汁などの症状は、鼻部の血行不良が関係しています。適度な運動、湯船にゆっくり浸かるなど、全身の血行を良くすることが大切です。
ほうれん草や人参、鶏や豚のレバーなどに豊富に含まれるビタミンAには、鼻の粘膜を強くする働きがあります。
副鼻腔炎をはじめとする鼻の病気全般に言えることですが、漢方の陰陽五行説の考え方に基づいて、胃をいたわる食生活を心がけます。
漢方の治療は、「漢方薬を飲むことが治療」そんな風に思われがちですが、食生活や生活習慣の改善などの養生は、薬と同じくらい重要なことだと考えられています。体質改善は漢方の得意分野です。当然、それに対する薬も処方していただけます。それと同じくらいに、養生法についてのアドバイスも受けることができます。治療や手術をしても再発を繰り返している方など、漢方の葵堂薬局まで相談を!
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