藿香正気散(かっこうしょうきさん)は「和剤局方(わざいきょくほう)」という漢方の古典で紹介されている漢方薬です。処方名の頭についた藿香(かっこう)は、体に取り付いた邪(ウイルスなどの病原菌)を発散させる生薬で、この処方の主薬でもあります。次の「正気(しょうき)」とは、からだの内外の冷えや湿気などが原因で、乱れてしまった気を正すという意味で、この処方名が付けられました。
日本では古くから夏の食欲不振に、ネギやミョウガ、シソなど香りが強くて辛みのある薬味や香辛料などを使用してきました。また、刺身のツマには必ずシソの葉が添えられています。それは、香りなどの刺激が胃腸の働きを活発にすることや、シソを添えることで食中毒が予防できるということを経験的に知っていたからです。藿香正気散には藿香や蘇葉(そよう:シソの葉)など香りの高い生薬も多く含まれており、暑さや冷たい飲食物をとり過ぎて働きの悪くなった胃腸を癒し、食欲不振などを改善することができます。
カゼの原因となるウイルスは、体を温めたり血流を改善したりすることによって体の外に追い出すことができます。しかし、夏のカゼでは暑さも増悪因子の一つとなっているので、体を温め過ぎることは適切ではありません。藿香正気散の主薬である藿香は、適度に体を温めて湿気も発散させてくれます。 藿香正気散にはこのほかにも、胃の中にたまった水分を取り去る作用のある生薬などが含まれています。胃腸の余分な水を除いたり、その働きを改善したりする夏に適したカゼ薬と言うことができます。また、胃腸の調子を整えることから、冬のカゼでも嘔吐・下痢を伴う胃腸型のカゼにも応用することができます。